『メルヘンチック☆変太郎』

オープニングテーマソング
《GO! メルヘンチック☆変太郎》
♪ダダッダー!
そうさ誰のものでもない
この緑の大地はみんなのもの!(みんなのもの!)
来るなら来てみろ地球を汚す黒い影
星よ海よ大空よ!(未来ある子供たちよ!)
今だ今こそ五つの力を一つの勇気に
メルヘンパワーで君の笑顔を守り抜く
ダダッダー!
美しい星地球
俺はメルヘン
俺はメルヘンチック☆変太郎
合体だー!
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前回までのあらすじ:
長年の目標であったメルヘン検定、略して「メル検」3級の試験に臨んだ芽留本変太郎(めるもとへんたろう)は、一次試験の実技課題「シャボン玉に乗って2分30秒以上浮遊」という難関を、シャボン液にボンドを混ぜるという反則ギリギリの技でクリアし、二次試験に進む。
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第65話「虹の記憶」
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試験官:「ご存知かとは思いますが、この3級免許を取得しますと、『虹を歩いて渡る』『三日月に腰かけて笛を吹く』が可能になります。がんばってください」
変太郎:「はい。気を引き締めて挑みます」
「それでは二次試験、あなたの『メルヘンに対する想い』を検定します。虹をテーマにした小論文を書いてください」
「虹か……」
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虹。
気象条件の気まぐれで、主に雨上がりに数分間だけ現れる七色の太鼓橋。
やはり虹に対しては「きれい」「神秘的」など好印象を持つ人が多いだろう。実害があるわけでなし、嫌う人はいないのではなかろうか。
ただ、見たのは憶えてるんだが「最後に見たのはいつ?」と尋ねられて答えられるだろうか。そう、その記憶までもが儚い命の虹……。メルヘン。
また、ライブで見たことはないが、オーロラも虹と同じようにきれいで神秘的な自然現象なんだろうなと思う。
いつかは肉眼でオーロラを拝んでみたい。
小学校の遠足で山へ行った。何年生のときか、どこの山に行ったか、どうでもいいことは憶えていない。ここで大事なのは、今となっては理由は謎だが、雨天強行の遠足だったということだ。
そして「雨の遠足」というミスマッチが作用しているためか、細部の本っ当にくっだらないことは鮮明に記憶にこびりついている。
朝からザザ降りよ。空と同じく全員が鉛色のアンニュイな気分。
いつもの遠足なら「運賃」と聞くだけで2分は爆笑し10分は話題に困らない、沸点の低い小学生が電車内でもお行儀のいいこと。
みんな雨ガッパ装備で山道に列を作って、黙々と修行僧の足取り。どこかで雨宿りしながら弁当食ったりしたんだろう。
午後の帰路、ようやく小雨になってきた。もうカッパは脱いでもいいかなという頃に虹の登場。
きれいな虹だった。薄く霧をまとって神々しかった。しかもその方向といいタイミングといい、我々のために出てくれたとしか思えない。メルヘン。
「キャー!」
「虹やー!」
「めっちゃきれー!」
今までの鬱憤を晴らすように、ここにきて小学生の本領発揮。理由なきテンションUP! 教室の床にワックスをかけるときと同レベル。
しかも「大声を出すと山びこが聞こえる」という山の神様からの粋なプレゼントも発見。更に無意味にテンションUP! 抑え切れない青き衝動を奇声で表現する奴が続出。講堂での映画鑑賞会で照明が消えたときと同レベル。
そんななか、ある一人の叫びが場の空気を一変させる!
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《アイキャッチ》

女性コーラス:
「♪シュビドゥバー メルヘーン」
(NHKなのでCMなし)
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「オーロラよりきれー!」
クラスのKの声だった。なぜか、本当になぜだかわからないが、その一言にみんなが食い付いた。
「おまえオーロラ見たことあるんか!」
「絶対ないやろ!」
「勝手に話つくんな!」
「アホー!」
「ボケー!」
「カスー!」
「プラモデルー!」
Kにとって不幸だったのは、レインボーパワーで少年少女たちの心が一つになっていたことだ。もう全員のテンションMAX! 授業中にスプリンクラーが誤作動したときと同レベル!
「かーえーれ! かーえーれ!」
山間にこだまする手拍子と帰れコール。そして手に負えない年代の悪ノリを静めようとする教師陣の怒声。
いつの間にか虹は姿を消しており、それとともに大合唱も収まった。
残されたのは霧に響き渡るKの泣き声だけ。
私にとって虹は「きれい」や「神秘的」ではなく「帰れコールと号泣」だ。今ではどうかわからないが、当時Kは非常に貴重な存在の「虹を嫌う人」だったと思う。おそらくオーロラのことも嫌いだったんじゃないだろうか。
いつかは肉眼でオーロラを拝んでみたい。
できればKと一緒に行きたい。そして虹とオーロラ、どちらがきれいなのか二人で確かめたい。七色のアーチ……、光のカーテン……。メルヘン。
ついでに謝りたい。
カバヤビッグワンガムをおやつに持っていって中に入ってるプラモデルを一緒に作ろうと約束してたのに、「遠足行ってプラモデル作るのは人として何か間違ってる」と、ビッグワンガムを買いに行った「しんとくストアー」で突如覚醒し、裏切ってとんがりコーンを買ってしまってごめんな。
とんがりコーンをバリバリ食いながら「こいつ遠足きてプラモデル作っとんねん。アホや」と指差して笑ってごめんな。
そしてあのとき「プラモデルー!」とか叫んでごめんな。メルヘン。
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「……いい話です」
「ありがとうございます」
「オーロラもメルヘンワールドには欠かせないアイテムですからね。参考までに『オーロラのマントに身を包む』ためには国際A級ライセンスが必要です」
「ええ、いつかは取得したいと考えています」
「ははは、頼もしいですね。この小論文ですが、文章の内容的には間違いなく合格圏内でしょう。ただ一つ注文をつけるとすれば、『二次試験』と『虹』というユーモアとウィットに富んだユニークな言葉遊びにまったく言及していない点です。いささか残念です。お気付きになりませんでしたか?」
「はあ……」
ナレーション:
気付かない振りをする優しさ。それが時には人を傷つける。「二次試験やから虹かい! ダジャレかい!」触れてほしいと思う場所、触れてはいけないと思う場所、無謀と勇気は似て非なるもの。
万感の想いを乗せて汽車は行く。変太郎はまたひとつ大人になった。
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次回予告:
三次試験の適性検査で「たまに異常にデカく見える月に驚いてしまう」の問いに対し、自信満々で「○」と答える変太郎。その瞬間、試験官の瞳が鈍く輝く。どうなる変太郎?
次回、メルヘンチック☆変太郎 第66話「闇の視線」
メルヘンの歴史がまた1ページ……。
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エンディングテーマソング
《ロンリー・メルヘン》
♪抱きしめたい
温もりを求める君が 僕の胸で泣く
行き場をなくした弱い心が 夜に溶けていく
僕は何も言えなくて
思いを伝えきれないまま
君が遠い 声も届かない
僕は何も言えなくて
抱きしめたい ただ抱きしめたい
Woo…… Woo……

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つづかない
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