2025/05/15 23:40
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2008/05/06 09:00
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「ちょっといい?」 小豆色スーツ君に声を掛けてみる。 「はい?…あ、なんでしょう…」 戸惑いながらも、彼は足を止めてくれた。 目に拒絶や強い疑いの色が見られない。好感触である。 それまで何度も繰り返してきた勧誘の言葉を、彼らに向けて発した。 興味深そうに聞いてくれたのは小豆色スーツ君だけで、左側に立っている背の高い紺色スーツ君はあからさまに胡散臭いものを見る目を向け、騙されるなとばかりに「おい!」と小豆色君をたしなめていた。 右側のもう一人の茶色スーツ君はちょっとダルそうに俯いていた。(なんか厄介なことが始まった…)という心情がありありと顔に出ていた。 こうなったら小豆色君に完全にロックオン。彼一人にセールストークを浴びせ、落としにかかった。まず彼を陥落し、芋づる式に後の二人を連れて行ってしまおう。 話している最中も、背の高い紺色君は「それはどういった団体なんですか?」「何かの勧誘なんですか?」と突っかかってくる。 彼の反応は至極まっとうである。怪しいのは私たちのほうなのだ。でも私たちは完全に彼を無視し、小豆色君を説得し続けた。 私たちがそれほど彼らにこだわったのには訳がある。 小豆色君のリアクションは、それまでの新入生には見られないものだった。彼の目は好奇心で溢れていた。 ”とりあえず行ってみたい”という思いが伝わってくるのだ。 なんとなく、彼は我がダンス部と相性が良さそうだと思った。 もう連れて行くしかない。 「じゃ、行こっか?」と決め言葉。彼は「あ、はい…。」と答えるも、あとの二人が気になるようだった。 そういえば茶色君が視界から消えている。視線を下げると、彼は花びらが張り付いた水溜りをよけるようにしてウンコ座りを決め込んで、めんどくせぇオーラを全身から立ちのぼらせていた。 いかん。強硬手段に出るしかない。 「はい、立って立って!」と茶色君を立ち上がらせ急きたてて、二人まとめて連行した。二人が歩き始めると、紺色君も渋々ついてきた。 よかった。彼らを逃さずにすんだ。私はこの時、本当にホッとしたのである。 会場に着くと、開始からかなり時間が経過していることもあり、すでに出来上がっている新入生や先輩たちもいた。 私達は3人を椅子に座るように促し、飲み物を勧めた。 とにかくしゃべりすぎで喉がカラカラだった。新入生の応対をする前に、自分の喉を潤さねばならなかった。ちょっと離れたテーブルにあるコップのビールを一気にあおった。 見渡すと、一時は椅子が足りないほど混みあっていた会場も、そこまでの人口密度にはなっていないことに気がついた。 やはり脱走者が多発したのか。人数が多ければ、抜け出すのもあまり目立たず抵抗がなくなるだろう。仕方のないことだ。 ふと気になって同期の男子部員達を探してみた。彼らも慣れない勧誘活動で疲れていることだろう。と思ったら、新入生そっちのけで児嶋と坂梨が会場の端のほうでなにやらダーツまがいのゲームをやっていた。一緒に打ち興じていたのはHtyさんである。 極度のシャイボーイ(おそらく)である同期の彼らは、新入生で埋め尽くされた会場で、どのようにアプローチすべきか決めかねていたのだろう。所在なさげな彼らを見かねたHtyさんが彼らのところへ行き、なんとなくダーツ遊びが始まってしまったようだった。彼らの性格をわかった上で、孤立しないように配慮してくださったと思われる。 コレを見てイキリ立ったのは、やはり同期の諸田君である。彼は、この新歓初日という日を迎えるにあたり、彼なりに上級生としての責任、およびこの新歓ミッションを成功させなければならないというプレッシャーを感じていたに違いない。 なのに、同期はダーツなんかして遊んでいるではないか。どういうことだ!? 彼はきっと焦っていたのだ。テンパってしまったのだ。そして口をついて出たのが 「お゛いHty!」 という怒号。 彼の声は会場(半分くらい)中に響き渡った。 怒りの矛先を何故か2学年上の元主将に向け、しかも呼び捨てで怒鳴りつけるという、恐らく平静時には有り得ない超ウルトラC級難易度の技を繰り広げた。 とはいっても、その場の空気が緊迫することもなく、それ以上の進展がある訳でもなく、在来部員たちにとっては「あれー」とか「ありゃりゃ」とかいうレベルの出来事であったと思われる。 しかし、小豆色スーツ君は、この諸田君の言動をしっかと見届けていた。 そして、一連の成り行きと、諸田君の髭と眉の濃さがイケナイ相乗効果を生み出し、(あの人は絶対4年生でしかもかなりエライ人に違いない)と彼に信じ込ませるに至った。 後に彼が真実(諸田君は現役合格していたピチピチの2年生弱冠19歳☆)を知り、激しく混乱するハメに陥ったのは有名な話である。 一息ついていると、大竹さんが私に近づいてきた。 「みのりさんみのりさん、あちらのテーブルの方がご指名です。」 完全にホステス扱いじゃないですか、と言おうとしてハタと気がついた。アタシ、今はホステスじゃん。アタシだけでなく、ここにいる部員全員がホステスでありホストなのだ。イヤラシイ意味ではない。”おもてなしする側の人間”という意味である。 全力をかけて連れてきた新入生たちを、今度は全力でおもてなしせねばならない。 客引きからホステスへ。目まぐるしい転身である。 大竹さんが指し示していたのは、最後に連れてきたあの3人である。 恐らく大竹さんが彼らに「誰に連れてこられた?」と聞いて、私を指差したのだろう。 彼らは最後のほうにに入室したこともあって、端の方にこじんまりと座っていた。 私は言われるままに、大竹さんと共に彼らのところへ行った。 椅子を持ってきて側に座ると小豆色君と茶色君は笑顔で迎えてくれた。 茶色君は、来る前は完全にアンニュイモードだったのだが、いざ席に着いてしまうと観念してしまったのか、その場を楽しもうとしているようだった。話しかけると笑顔で応えてきた。とても人懐っこい笑顔だった。 紺色君は相変わらず硬い表情だ。彼の心の鎖を解くには、多少時間がかかるだろう。でも彼も、話を振ればきちんと答えてくれた。真面目で誠実そうな印象を受けた。 とりあえずは自己紹介をしてもらわないと話が進められない。 名前を聞くと、紺色君は森田、茶色君は大野と名乗った。 名前を覚えるのが不得意な私は、”背が大きくないほうが大野、大きくないほうが大野…”と一生懸命頭の中で唱えた。 最後の小豆色君を促すように見ると、彼はちょっと座りなおすようにして 「僕、…治面地といいます。」と丁寧に言った。 ? 私と大竹さんは身を乗り出して「え?…ジメ…何?もう一度言って!」と聞きなおす。 彼は再び丁寧に「ジ、メ、ン、ジ、っていう苗字なんです。」と教えてくれた。 私達はそのあまりに珍しい響きに驚いた。 「どういう字を書くの?」とか、「地元に多い名前なの?」とか、彼の今までの人生の中で、恐らく名前を名乗るたんびに聞かれてきたであろう質問に対し、彼は実に感じよく、笑顔で答えてくれた。 変わった名前を持つ人の中には、自己紹介の時に繰り返される一連のやり取りを多少面倒に感じている人もいるようだが、彼にはそんな様子はない。その珍しい苗字を、初対面の人との有効なコミュニケーションツールの一つと捉えているかのようだった。 続いて高校時代の話を聞いてみる。 彼らは岐阜県出身で、同じ高校をその春卒業したとのことだった。合格した学科は違えど、三人揃って現役合格とは大したものである。 彼らは本当に明るく、楽しそうに高校時代の話をいろいろしてくれた。 彼らの出身校は普通科のほかに工芸科(だったっけ?)などがあり、三人とも同じ工芸科にいたわけでなかったとのことだった。 治面地君がいたのは普通科で、高3の夏休みに東京の美大予備校の夏期講習に参加していたと言っていた。その予備校が、私が浪人していたときの予備校と一緒で、これを聞いたときにも、何か縁のようなものを感じてしまったのだった。 「3人は前からずっと親しかったの?」と私が質問すると、「いやいや…」と首を振る治面地君。 「コイツは高校時代は本当に怖そうなイメージで、声を掛けるのも気が引けて…」と大野君を指差して言うと、 「誰が怖いちゅーねん何いっとるおまえ…!」と憤慨してみせる大野君。 彼は、実際話してみると、とても穏やかで柔らかい語り口なのだが、黙っていると確かに目つきが渋い。 私が「あー、さっきウンコ座りしてたときはアタシもちょっとびびったわ」と言うと「えーっ!マジっすか…コワいって…全然そんなことないんすけどぉ…」とちょっと困ったような笑顔を見せた。 私は彼らと話しながら思った。 「なんと気持ちのいい連中じゃろう・・・」と。 別に、これを書いている時にテレビで「カリ城」のエンディングシーンが流れていたからこのように表現したというわけではない。 本当にそう思ったのだ。 話に花を咲かせていると、想田さんがニッカニカの笑顔で近づいて来た。テンションの高さから、かなり飲んでいることが伺えた。 この上なく心強い援軍である。 想田さんの話術は、全ての人間を魅了する。 「どう?飲んでる?」3人の顔をかわるがわる見ながら、椅子を引き寄せすぐそばに腰掛けた。 想田さんは「ビールでいいの?好きな飲み物ある?」とか「なんか他のお摘み持って来ようか?」とか、彼らを気遣う。 彼らも「いえいえ、大丈夫です」と遠慮しながら、(なんか面白そうな人が来た…)といった期待の目で想田さんを見ていた。 「3人は前からの友達?」 想田さんが質問し、3人の自己紹介が再び始まった。 治面地君の名前を聞くと、やっぱり驚く想田さん。 「え?ジメンジ?珍しいねー!どんな字書くの?」 「あ、はい、最初の”ジ”は”治める”の字で、”メン”は”ツラ”で、んで最後の”ジ”は”地面”の地、です。」 「え?最後の”ジ”が”地面”地の字で、初めの”ジメン”が”地面”じゃないの?」 聞いているほうも混乱してきた。 「ええ、”ジメン”を”地面”とは書かないんです。」 「あー、そうなんだー。ふーん、面白いねー。でも惜しいよねー。初めと終わりの”ジ”の字が逆だったらさー、”地面を治める!”みたいな感じでな!なんか意味的にもな!カッコいいっていうかさ、いや、治面地でもカッコいいけどさ!」 (想田さん、結構酔ってらっしゃる…)と思いながら聞いていた私。 治面地君は「あー、確かにそうですねー。」と頷きながら笑っていた。 想田さんが治面地君の肩に手を回す。 「うん、決めた!今日から君は”地面治”だ!うん。そのほうがいい!そうしな!」 想田さんのテンションに多少気圧される治面地君。大野君が「そうだよ!そうしろよお前」と便乗する。 初対面ゆえの戸惑いを見せつつも、「あー、はい、そうですね、ハイ!」と治面地君が返事をすると、想田さんは 「”そうですね、ハイ!”だって!もー、カワイイなぁ!カッカッカッカッカっ!」と周りの私達を見回しながら叩きつけるように笑った。 熱かった。 そうなのだ。彼ら3人とも、カワイかったのだ。たった1年や2年(私は一浪しているから2年だけど)の年齢差なのに「カワイイ」なんて言っては失礼かも知れないが、とにかくそう思ってしまったのだ。 そしてその感覚は、新入生を迎えたことのある部員には多かれ少なかれ覚えがあるものだと思うし、今、まさに新入部員を迎えたばかりの現役ダンス部員の皆さんは、その真っ只中なのではないだろうか。 残念ながら、この年の新歓に関わる記憶は、ここらあたりでフェードアウトしている。 何か面白い、はっちゃけた内容を期待して読んでこられた方もいたかもしれないが、申し訳ありません。特にそういうことはなかったです。 本当に彼らはナイスな好青年、その一言だった。 治面地君の以前の記事によると、この後、想田さんの自宅へ流れ込んでいくことになるらしいが、正直自分がそれに参加していたという記憶が無い。弱いくせに酒を一気飲みしたせいで、自分がかなりフラフラになっていったことしか覚えておらず、帰ったのかどうかも判らない。 言うまでもなく、治面地君たちはその後我がダンス部に入部し、今に至る。森田君は残念ながらしばらくして部を離れてしまったが、芸祭などのイベントには顔を出してくれたりした。彼は個性的なライフスタイルを確立していて、よくその事が話題になることも多かった。体格もよく華があったので退部するときにはとても惜しまれた。 この年の、その他の新入部員には、ご存知の大五郎や由羽子、その紹介で入ってきた美久男、ヒデキと同じアパートに住む岡崎がいる。6人とも、どの代にも引けを取らず、個性的で愛すべきキャラの持ち主である。だが、1コ下の代の後輩というものは、なぜこんなにもかわいいのだろう、といつも思う。確かに思い入れが違う。初めて後輩として接してくれた人たちなわけだから。在部当時接する機会も多かったから、彼らとの楽しい思い出は尽きない。 そして部のイベントにほとんど顔を出せなくなった今も、彼らのことを応援し続ける気持ちは変わらない。 私はシャカリキになって勧誘をしまくったが、私が連れてきた中で、結局部に残ってくれたのはじめちゃん、(大野)ヒデキの2人だけである。 手当たり次第に多人数連れてくればよいというものではない、ということを立証したようなものだ。 逆に、彼らをはじめて目にした時に感じた、あの直感めいたもの(実際には目が離せなくなった、ぐらいの感覚なのだが)を思うと、「運命の出会い」があるならば、やはりそういう時には”ビビビ”と感じるものなんだなぁと、納得してしまったりもした。 まうまうHPやこのブログを作成してくれたじめちゃんにはいつも感謝している。彼がいなかったら、私はダンス部とのつながりがほとんどなくなっていただろう。 彼が入部して間もない頃は、彼に声を掛けた自分を、自分で「でかした!よくやったアタシ!」と褒めていた。 でも私は分かったのだ。 彼は、この部に入部する運命だったのだ。 彼がムサビを受験しようと思ったのも、お母様が小豆色のスーツを選んだのも、一番最後に12号館から出てきたのも、そこに私たちが居合わせたのも、全て今の彼があるための必然だったのだ。 とにかくそんな気がする。 彼の、ダンス部との「ファーストコンタクト」の相手が私だったことを、今はただ光栄に思うのみである。 ******************************* 長くなりましたが、このお話はここでおしまい。 前回に引き続き、遠い昔の出来事ゆえ、かなり記憶があやふやなところがありますので事実と異なる記述があるかもしれません。 許してください。 でも私の頭の中ではこんな感じでメモリーされているので仕方がありません。 批判、ご指摘はコメント欄で受け付けます。 でもあまりキツク言わないでくださいね。泣いちゃうかも知れないから…。 PR |


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