2025/05/19 05:32
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2008/10/06 19:00
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そもそも、なぜ、ボディピアスを記事のテーマにしようと思ったのか。こんなことは初回に書くべきだったのだが。 ご存知の方も多いと思うが、映画『蛇にピアス』が公開されるというニュースを、丁度先月の記事のテーマを決める時に見てしまったからである。 弱冠二十歳だった女性が芥川賞を受賞した、あの作品の映画化である。先月の半ばに公開されたようである。 受賞したのは5年ほど前のこと。当時、友人から掲載誌を借りて原作を読んだ。 『蛇にピアス』、この作品にはボディピアスの穴を開けるシーンが多く出てくる。 主人公の女性がtatoo兼ピアススタジオに行く場面では、ワタシ自らの体験が記憶の底から呼び覚まされて、とてもリアルに情景を思い浮かべてしまった。 ちょっと薄暗くて、気だるそうな人たちが所々で座り込む、独特の雰囲気をもったあの部屋を…。 あれは、今から12年前のことである。 ワタシは、渋谷にある小さな広告制作プロダクションでディレクターをしていた。 顧客との打ち合わせは日中に、そして社内での制作は夕方から深夜にかけて…。デザイナーは昼過ぎにのんびり出社する人がほとんどだったが、打ち合わせに参加した後、社内でデザイナーの後ろに張り付いて作業を見続けるディレクターの業務は、テクニックとしては口先だけしか使わないわりに過酷を極めていた。 その年の夏のある日、早朝(といっても9:00a.m.)に広告代理店と打ち合わせをしたワタシは、昼前に帰社し制作依頼内容を担当デザイナーのAさんに説明した。マシンで作業を始めるAさんの横で、ワタシはカンプ制作のためひたすら写真素材を選んでいた。 連日の深夜作業が体にこたえる。素材集をパラパラめくっていると眠気が襲ってきた。ぼやけた頭を覚ますため顔を上げて深呼吸。椅子に横座りしてAさんのほうに体を向けていた私の目に、あるものが飛び込んだ。 Aさんの、左耳についているリング状のピアスである。 Aさんは、当時30代半ばの男性。大柄な長髪野郎だった。 服装は特に個性的ではなかったが、その片耳についているピアスはステンレスのみで作られているとてもシンプルなもので、男性が付けていても違和感を感じさせなかった。 彼がピアスを付けているのは以前から知っていたが、改めてよく見ると、そのピアスは今まで自分が目にしてきたのとはどうも違うようだった。 リング状のピアスは、主に女性が付けている、いわゆるファッションピアスにもよく見られるが、全体的に太さがあったとしても、耳たぶを通す部分は針金くらいの細さになっているものである。耳に開けられている穴の大きさに対応するためだ。 彼が付けている物は、ただ単に1ミリほど太さのの金属の棒を、直径約1センチくらいのリング状に丸めただけのようだった。 ということは、耳には1ミリの太さが通る穴を開けているということなのか…。 しかも、リングのつなぎ目の構造も謎だった。 見た感じ、つなぎ目にはビーズ状の小さな金属ボールがはめ込まれているだけのようだったが、付け外しはどのように行うのだろう。 疑問と興味が湧いて、とりあえず、軽い気持ちで「Aさん、そのピアス、いいですね」と言ってみた。 すると彼は思いのほか食いついた。堰を切ったようにそのピアスについての講釈を始めたのだった。 彼は、自分が付けているのがボディピアス用のものであること、そしてそれはファッションピアスとは全く違うのだということを語り始めた。 基本的に素材は医療用ステンレスで、アレルギーなどのトラブルが少ないこと、一度付けたら専用の工具がないと容易には外せないこと、しかしフォルム的にも体へのなじみがよい物が多いので、自分は既にこのピアスが体の一部と感じているということなどなど。 正直、作業をしながらではあるが猛烈な勢いで語りだした彼に多少引き気味であはあったのだが、火をつけたのは他でもない自分なので、相槌を打ちながら興味を持って(いるフリをしながら)聞いていた。 すると彼は「ピアスの穴を開けたいと思っているの?」とワタシに聞いてきた。 ちょっとマズい空気になってきたなと思いつつ「まぁ、開けてみたくなくはないですが…。」と濁した。 彼は、再びボディピアスの素晴らしさを説き始めた。 店頭で売られている「ピアスガン」と呼ばれる穴あけ機は、一瞬で穴を開けられるのだが、突き刺す棒の先端が鋭くないため穴の周囲の組織を壊し、穴あけ後のトラブルが多発するのだとか。一方ボディピアススタジオでは、医療用(またかよ)の注射針で穴を開けるため、先端が極めて鋭いので痛みはほとんどなく、しかも狙いを定めて刺すので穴の位置や向きがズレる心配がないらしい。 故に、ピアッシングするなら断然ボディピアススタジオがよい、とのことだった。 それを聞いて、あぁなるほど、確かにねーと納得する部分があった。 売られているピアスガンを見ると、(こんなのを突き刺しちゃうの?)とビビッてしまうくらい、装着されているファーストピアスの棒は太く先端は鈍角である。 もちろん、それを付けたら最低一週間の長いお付き合いになるのだから、あまり鋭いと就寝時などに差支えが出てくるに違いない。 貫通作業と日常生活を両立させる、ギリギリの線なのだろう。 そう考えると、医療用注射針を使った穴開けの方が体への負担が遥かに少ないと思えた。 しかも穴開けは一発勝負だ。 あ、失敗しちゃったーでやり直し、というわけには行かない。 ピアスガンは狙いを定めにくいようで、それを使って開けた穴の位置に不満を持っている人もごく僅かだが知っていた。 そんなことを考えていたワタシの様子を見て取った彼は、「実はそのピアススタジオってこの会社の近くにあるんだよね。昼飯の後行ってみる?」と言い出した。 さすがに「いやぁ、心の準備が全く無いので、いきなり言われても…」と慌てたのだが、「えー、準備ってなに?もしかしてコワいの?」と言い返されてしまった。 「めちゃめちゃコワいです!マジでコワいので勘弁してください。」と、30代も半ばを迎えた今のワタシなら言えるだろう。でもその頃のワタシは若かった。青かったのだ。 ビビりまくっているくせに、反射的に「別にそういう訳じゃないですけどぉ」などとつっぱって見せてしまったのである。 言った後で(しまった)と思った。 すると今度は、彼の反対隣に座って作業をしながら我々の話を聞いていた、20代後半の後輩デザイナーB君が食いついてきた。 「え、ピアススタジオ行くんスか?俺も一緒に行きたいっス!」と言いだすB。彼はファッションピアスをしているのだが、穴をちょっと拡げてAさんみたいにボディピアスをしたいのだと言う。 内心(余計なことを言いやがって!黙れB!)と絶叫しつつ平静を装うワタシ。男性二人はボディピアスの話で盛り上がっている。 Aさんはおもむろに時計を見やり、「お、昼飯食いに行こうぜ。帰りにピアススタジオな。」と、確実に最後の「な」のところでワタシの顔を見て言った。 時計は既に12時過ぎ、他の社員は皆昼食へ行き社内には我々3人だけ。意気揚々と歩く男二人の後を付いていくワタシは、濁流に飲み込まれていく木の葉のようだった。 もそもそと昼食を食べながら、先刻ピアスの話をAさんに振ってしまった自分を悔いていた。 別に、絶対穴を開けたくないという訳ではない。どちらかというと多少興味はあった。 耳につけるアクセサリーは、見た目にもアクセントになるし、他人が付けているのを見ても(あぁかわいいなぁ)と羨ましく思うこと度々であった。 店先でピアスを手に取り物色することもあった。本当にピアスは小っこくてかわいい。欲しい!付けたい!と思うのだが、裏面に飛び出ている針ほどの太さの棒が、「アンタには無理でしょ」と冷たくワタシを突き放すのであった。 だからと言ってイヤリングという選択肢は無い。イヤリングは痛いのだ。痛いくらい締め付けないと落ちる。 装飾部と留め具をつなぐ構造部分も、デザイン的にどうかと思ったりする。 ピアスは可愛いアクセサリーだ。 しかし、体を多少なりとも傷付けるという行為にはやはり恐怖を感じずにはいられない。 百歩譲って、恐怖は仕方が無い、甘んじて受け入れるとしよう。穴を開けているときの無防備な自分を、こんな、特別親しくも無い、ただの職場の先輩に見られるのもイヤだった。 ああ、なんでこんなことになったんだろう。 そんなことばかり考えていた。 ワタシが勤めていた会社は、社に戻る時間を伝えておけば、昼食だろうが夕食だろうが外出は自由にして構わない。デザイン系の会社には有りがちだが、社内規則は極めて緩かった。 やることさえきちんとやれば他はお咎めなし。 そういう社風が気に入っていたのだが、その日だけはそのルーズさを呪った。 「休憩時間が終わったので社に戻りましょう!」 それが言えたらどんなに良かったか。 道玄坂上で昼食を食べ、店を出た我々は、Aさんの先導でピアススタジオを目指し歩き始めた。 渋谷駅を中心にする弧を描くように裏通りを北上すると、狭い路地にその店はあった。小さな古いビルの、確か2階だったと思う。 階段を上ると店の入り口が。入り口といっても普通の事務所風の部屋なので、鉄のドアを開け放しているだけである。 中を覗くと、広さは20畳くらいはありそうだ。かなりの客で混雑しており、店の外にも溢れていた。圧倒的に多いのが10代の子たちに見えた。 確かにその時は夏休み真っ最中。街中にも若い子が沢山いたが、こんな、きっとマイナーに違いないと思っていた場所へ、まだ高校へ通っているような年代の子がこぞって押し寄せているとは思ってもみなかった。 緊張が高まったワタシは、入り口で棒立ちになってしまった。 入るのに躊躇する理由もあった。 午前中打ち合わせに行っていたワタシは、ばっちりスーツ姿だったのだ。 やぶれていたり、ヘソが出ていたりするファッションの皆さんとはエライ違いである。 浮きまくりだ。 するとAさんが、入ってすぐの所にある小さなショーケースを指差し、「ここでピアスを選びな。」と言った。 見ると、沢山とは言えないが、Aさんが付けているようなリング状のボディピアスがショーケースの中に並べられていた。ボール部分がステンのものと、不透明系の石(ターコイズとかラピスラズリとかオニキスとか)のものがあった。 ここで商品を買ったら、もう逃れる術は無い。どうしよう。と躊躇していると、自分の後ろに控えている客の列が目に入った。 もう逃げ道は塞がれてしまった。人を待たせているという焦りもある。もう買うしかない。 しょうがないのでピアスを選ぶことにした。Aさんとお揃いになるのもどうかと思ったので、ボールがブルーレースメノウという薄水色の石で出来ているものを購入することにした。 ショーケースの内側にいる男性店員さんに「コレを2個下さい。」と言って指差し、その店員さんの顔を見上げてビックリした。 眉やら唇やら鼻やら眉間やらほっぺたやら、所構わず顔中ポチポチと金属が貼り付いている。なにやらぶら下がっているものもある。それらは皆ピアスだった。 耳たぶなんぞは直径2cmほどの巨大な鳩目パンチ状のものがはめ込まれ、穴の向こう側が覗けた。その穴に、さらに飾りとなるリングをぶら下げている。 たまげた。 当時のワタシは、こんなにピアスだらけの顔を見るのは初めてだったのだ。 その店員の顔を見て、とんでもない世界に足を踏み入れたのだと悟った。 店に来るまでは、ボディピアスを愛好する人というのは、まぁやっても1個か2個くらい、ヘソとか、なんかそこらへんに付けるくらいなんだろうなーなんて思っていた。 映画『羊たちの沈黙』の犯人は、なにやらとんでもないところに付けていたけど、そういうのは特殊な人だろうと。 なんだかなぁ!穴だらけだよキミ。 どうしちゃったんだよ。何があったんだよ! あまりの痛々しさに店員の顔に釘付けになっていると、穴だらけだけど柔和な面持ちの彼は「店で開けていきますか?」と聞いてきた。 「あ、あぁハイ」と答えると、穴だらけ君は「じゃ、コレもね。」と言いながら、表面セロハン、裏面が紙になっている、いかにも医療器具っぽい細長いパッケージを2本手渡してきた。中には長さ10cmくらい、太さ1mmちょっとの筒状の針が入っていた。 針を手にしたワタシは、さながら囚人服を渡された罪人。これから起こる現実を突きつけられた気がした。 こんなぶっといもん刺して、痛くないわけねーじゃんっ! 正直泣きそうだった。 どんどん、どんどん、追い込まれていっている。 そして穴だらけ君はニッコリして「お会計14000円です」と言った。 高っ!!高すぎる!!! 想定外の出費だ。この石、そんなに高価なの?たった直径3mm程なのに!それともこの針が高いのか?! 肉体的に痛い思いをする前に、経済的にも痛い思いをするとは思わなんだ。 なんだかよくわからないが仕方なく払った。後ろで列をなしている人達の視線が痛い。 すると、後ろに立っていたAさんが信じられないことを言った。 「やべぇ!1時から社長と打ち合わせだった!俺ら帰るわ。」 はぁぁ???!!!なにそれ??!!! 連れてきておいてそれは無責任過ぎやしませんか? 穴開けを見られるのは嫌だけど、こんな所に置き去りになるなんてもっと嫌!! 抗議の眼差しを向けるも、行列からそれていたA、B両人との間には既に2~3人の客がいる。 大騒ぎするのもはばかられた。 「(一人でも)大丈夫っしょ?○○さん(私の上司)にはあと1時間くらいで戻るって言っとくわ。じゃ」 しれっと言って立ち去る2人の背中を見つめ、ワタシは心の中で呪いの言葉を吐き続けた。 続く ************************************************************************* またかき終わらなかった…。 すみません。もう、ダラダラ書かせておいて下さい。(泣) PR |


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