2025/05/15 06:05
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2007/06/13 09:00
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それは、高二の夏のことだった。 高二の夏・・・。甘酸っぱいような、青臭いような。若さとトキメキに溢れた響き。 ・・残念ながら、タイトル通り、そんな物とはまるで無縁なお話です。 ひと夏の経験。そう、文字通り、一回限りの夏の経験談。 当時一番仲の良かった友人に誘われ、夏休みに友人の母方の祖母の家に一週間滞在させてもらうことになった。 友人の名前は「みっこちゃん」。 足の悪いお婆様一人では何かと負担がかかるということで、里帰りがてらお母様も同行、炊事などをしていただくことになった。彼女の妹(中三)も一緒だった。 お婆様の家は山口県のF市。 新幹線で四時間のところ、途中熱海で集中豪雨のため足止めをくらい、二時間オーバーでやっと到着。長い車中も友達同士だと全然苦にならなかった。みっこちゃんは、久しぶりにお婆様の家を訪ねることもあって、かなりウキウキしていた。 駅を降りると、もう夕方になっていたがかなりの蒸し暑さ。夏休みになったばかりとは思えない気候だった。 お婆様の家は、駅から歩いて十五分ほど。かなり大きな純日本家屋で、門構えをくぐるときはちょっと緊張してしまった。 敷地は広く、手前に平屋、その奥にこれまた立派な二階家が。 この家に、今はお婆様一人で住んでいるという。みっこちゃんは、中学を卒業するまでは福岡に住んでいたので、お婆様の家にはよく遊びに来ていたと言っていた。 家の中に入ると、小柄で優しそうなお婆様が出迎えてくださった。挨拶をし、手土産を渡す。顔を上げて家の中をちょっと見渡した。玄関は、門を背にして家の右側にあり、その突き当りが台所と居間。そのほかの部分はすべて和室で、四部屋もあった。 平屋部分だけでも、お婆様一人では広すぎるくらいだろう。 「広いおうちだねぇ」と言ってふと目をやると、台所と和室の間にある廊下が、更に奥に伸びているのに気が付いた。 裏の二階家とを繋ぐ渡り廊下になっているらしい。二つの家屋の狭間には、陽光が差し込んで草木が光っていた。 みっこちゃんが私の目線に気が付いた。「あぁ、あそこね。奥の家と繋がってるの。奥の家は普段は使わないようにしてるから行かないでね。」と私に言った。お母様も私の顔を見て頷いた。 ・・確かにこの時、私は違和感を感じたのだ。 ”行かないでね”。 子供じゃないんだから、一人で勝手に動き回るわけがない。 でも、まぁ、あまり深く考えず、(古くて屋敷が傷んでいるのかなぁ。)とか、(壊れやすい物があるのかなぁ。)などと思っていた。 翌日からは、お婆様の家を拠点にみっこちゃんと妹、私の三人だけで観光三昧。萩、津和野、秋芳洞といった名所を日替わりで訪ねる。海水浴にも行った。 東京と違い空気が澄み切っていて日差しがとても眩しく、天気にも恵まれ景色も抜群だった。 とてもとても楽しかった旅行だったのだが、実は一つ気になることがあった。 毎日、夜明け前に、足音で目が覚めるのだ。 家の和室部分は、広い畳敷きを襖で四つに区切ってあり、我々は庭側の一室を使わせてもらっていた。庭との際には細い廊下があり、夜寝る時は暑いので廊下との境の障子を開け放していた。 初日の夜、遊び疲れで熟睡していたのだが、廊下の突き当たりにあるトイレのドアを閉める音でふと意識だけが覚醒した。そして部屋の脇を足音が通っていく。 その時は、「夜中のトイレ=老人」、あーお婆様がおトイレに行ったのかー、と思った。 二日目、三日目の晩も同じ音で目が覚める。だが三日目、足音を聞いていて(?)と思った。 お婆様は足が悪く、歩みがゆっくりなので普段あまり足音がたたないのだ。聞こえてくる足音とお婆様が重ならない。 その日は足音が消えてから目を開けた。枕もとの腕時計を見ると、針はちょうど四時をさしていた。 四日目の夜も普通に就寝した。昼間、足音のことが頭をよぎったが、みっこちゃんには言わなかった。大した事とは思わなかった。お婆様でないのならお母様の足音なのだろうと思った。 夜明け前、やはり「パタン」という音で覚醒する。続く足音。裸足で廊下を歩く、ちょっとぶっきらぼうなミシミシという音。 (やっぱり女性の足音ではない)と思った瞬間、目を開けてしまった。 目に入ったのは、廊下を歩く、男性の後姿。 半袖のアンダーシャツに、白いステテコ。髪は短く寝起きのままといった感じで、細身で背はかなり高かった。 ( あ )と思った。 そしてすぐ目と閉じた。 足音は廊下を直角に曲がり、渡り廊下の奥へと消えていった。 (?■○#€%*▼$!!) 思考が言葉にならない。 はっきりと、確かに見たのだ。でも全然怖くなかった。 この家に、そんな男の人は住んでいないということは明白。・・いや、もしかしたら裏の二階家に住む秘密の住人なのかも・・。 などと、とっさに思ったりもしてみたが、実際は自分の中の何か動物的な感覚が結論付けていた。 (きっと、アタシは見ちゃったんだ!) 隣のみっこちゃんたちは軽くいびきをかきながら爆睡している。きっと他の皆さんも。 (なにゆえにアタシ!?)恐怖とも驚きとも違う、複雑な思いが湧き上がってきた。そしてそのまま眠りに落ちた。 翌朝、すっきり目覚めた。未明の出来事はばっちり覚えていた。 朝の食卓でその日の計画を楽しそうに話しているみっこちゃん。 あの事を言おうか、言うまいか・・。 でも「この家は幽霊屋敷だ!」なんて言われたら気分が悪いだろう。結局言い出せなかった。 しかし、翌五日目の未明にも同じことが。 やっぱりというか、またか、というか。 さすがにたまりかねて、海水浴からの帰り道、前を歩くみっこちゃんたちに切り出した。 「あのさ、気のせいかもしんないんだけど、・・」 ソフトな出だしでアプローチ。自分が見たものをありのまま話した。 するとみっこちゃんと妹は、ちょっとハッとしたような顔をした。もっと驚くかと思ったがそうでもなかった。 意外にも私を見る目に疑いの表情はなかった。 「・・その人、もしかしたら、叔父さんかもしれない・・。」 「叔父さん?」 生きてるの?死んでるの?なんて口に出して聞けない。 「どんな感じの人だった?」と聞かれ、風貌を詳しく伝えた。 するとみっこちゃんは「あぁ・・・。」と言って少し悲しそうに目を閉じた。 「叔父さんね、だいぶ前に、奥の二階の部屋で自殺しちゃったの。・・でも、叔父さん、とってもいい人だったから。大丈夫だと思うよ。」 大丈夫って何が?と思ったが、これも飲み込んだ。 みっこちゃんは、私の話を聞いてもあまり戸惑う様子がなかった。しみじみとした、ちょっと懐かしそうな顔をしていた。 叔父さんとの楽しい思い出を話すみっこちゃんと妹を見ながら、滞在初日に二階家禁止令を出されたことをぼんやりと思い出した。みっこちゃん一家には、あの家は懐かしく、そして悲しい思い出の場所なのだろう。 悲しい出来事の詳細は当然聞かなかった。私が打ち明けたことによって、つらい部分に触れることになってしまい、申し訳なく思った。 しかし、私には疑問が残されたままだ。 何故、私だけが見たのか。家の中で唯一の赤の他人なのに。 しかも。 私はそれまで一度も幽霊の類を見たことがないのだ。ただの一度も。可愛がってくれたおじいちゃんもひぃおばあちゃんも枕元に立ってくれたことすらない。 考えても考えてもわからない。たまたま波長(?)のようなものが合ってしまったということなのか。 最後の夜には足音にももうすっかり慣れてしまっていた。 最終日、お婆様にお礼を言い、帰途につく。 とても楽しかったけど、とても不思議な旅だった。 結局、私が霊的なものを見たのは、これが最初で最後である。 残りの夏休み、また何か見えてしまうんじゃないかという恐怖のため毎夜家でビクビクしながら過ごしたが、徒労に終わった。二学期が始まるころには、ビクビクするのにも飽きてしまった。 本当に私が見た後姿は霊だったのか。 疑問も解消されず仕舞いだ。 あれから倍以上も生きてきた今でも、鮮明に覚えている、あの夏の一週間。 長い人生から見れば、一週間なんてホンの一瞬にすぎない。 一瞬だけの霊感体質。 一連の出来事の衝撃もおぼろげになり始めていたその年の夏の終わり、あることに気がついた。 私は視力が極端に悪い。0.1以下なのだ。 なので、裸眼でクリアに物が見える限界は鼻先から15センチくらいである。 あの後姿。・・・髪質といい、雰囲気といい、今でも鮮明に覚えている細かなディティール。 霊とは”目”で見るものではないんだなぁ・・ 役に立たない知識を得たのだった。 PR |


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