次の日から、さっそく僕らは彼らのサークルボックスにお邪魔するようになった。
履修登録でどの授業が面白いか、楽に単位を取れるか...などを教えてもらったり、グランドに遊びに行ったり、ご飯を一緒に食べたり...。夜は夜でキャンディーやフランソワで夕飯を御馳走になり、そのまま先輩の家へ遊びに行ったり、車でドライブに出かけたり、久米ボウ(久米川ボウル)に行ったり...。自分でも信じられないくらいのドップリ具合。それくらい楽しい毎日が始まった。
(...しかしこの段階ではまだ何のサークルなのかは分かっていない...)
同期の仲間もいいヤツばかりだった。
ヒデキが同じアパートの上の階に住んでいて、同じ建築科だったことで意気投合し連れてきた「ザッキー」。福岡出身のナイスガイだった。
またモリタと同じ油絵科で四国出身のピュアな柔道家「大五郎」。眉毛が濃くて都会の青年という感じの「文ちゃん」なんてのも居た。
また女の子もこれまたキュートで美人な「彩美ちゃん」「美奈子ちゃん」なんて子も居て、どんどん広がりを見せるコミュニケーションが嬉しくてたまらなかった。
このサインを見て欲しい。

これは僕の部屋に飾られたサインで、諸さんに書いてもらったものだ。
日付は4月の15日となっている。
これを機に僕は自分の部屋に訪れてもらった人には何か一筆書いてもらい、壁に飾るようにしていたのだが、実はこれ、ちーぼーさんの部屋に遊びに行った時にそういう張り紙がしてあり、それをマネたものなのだ。
つまりこの4月15日にはすでに先輩の家に入り浸り、また先輩を自分の家に連れてきては飲むという関係が出来ていたことを物語っている。
僕が「このサークルがダンス部である」と認識したのもちょうどそれぐらいの時期だった。
僕と競技ダンスの衝撃的な出会い。
僕をこの部に入部させ、ダンスを始めさせる最後の一押しがこの出来事であった。
いつものようにサークルボックスで僕ら1年生同期が揃ってダラリとしていた時の事である。
「なあ...この部って結局何部なんだ??そろそろ知りたいよなぁ...。」
「うん。なかなか教えてくれないんだよね。」
「ああでも、何かダンス部...って誰かが言ってたような...。」
「ダンス・・・・部??? 何それ?何ダンス??」「...何だろうね。」
「ダンスって言ったら、
フォークダンスじゃねぇ??」
「...え~。ここの人達メッチャいい人達だけど、フォークダンスだったら入んないぞ。(笑)」
「てゆうか、ほんとダンスって何だよ!?」
今までここが何の部なのか「隠されている」ことに気付き、そのモヤモヤ感を溜めていた一同の想いが、ここに来て一気に溢れだした。
そんな状態の時にフラッと現れたのがミナさんだった。
「ミナさん!!」皆、駆け寄る。
「...?」

「あのぅ...!」
「ここは一体何部なのか....聞いてもいいですか??」
きょとんとしたミナさんに皆がじっとその答えを待った。
「.......競技ダンス部だよ?」
へ??特に何部ってわけじゃないよと、またはぐらかされるのかと思いきや、
「....今さら何言ってるの?」ぐらいな感じで放たれたその言葉...。
そんなあっけなく僕らに教えていいんですか?という想いと
やっぱりダンス??....でもその聞いたことのない「競技ダンス」って何??
という想いが交錯し、僕らが言葉を失っていると、
「あ!そういえば今、上で竹歳さんが練習してるから、見る?」ええええ??思ってもみない展開だった。
今まで隠し続けられたことに対する
「解禁」そんな二文字が予想できた。
突然教えられた部の名前。
今まで会っていた人達が「ダンサー」であったという事実。
そしていきなり目の前に出される、その正体。
「み...、見ます!!」僕らは緊張した面持ちでミナさんの後に続いた。
(一体どんな踊りなんだ....?)
(変なダンスだったら、やめてやる....)
そんな好奇心と不安に満ちた顔で、一同は竹歳さんが練習する会議室へとゾロゾロ入っていった。
「ん??何だ何だ??」
ちょうど練習の合間で休憩していた竹歳さんとゆかりさんを尻目に、僕らは各自パイプ椅子を持ち出しズラリと並んで座った。
「この子達に踊りを見せてあげて欲しいんです」とミナさん。
しょーがねぇなぁ....と言いつつ、「じゃあサンバね。」といって準備を始める竹歳さん。
ぬおお...!一体どんな踊りなんだ??
曲が鳴り、
そして、
踊りが始まった。
・・・・・・!!!...何だこれは...!
目を見開き、息をも止めて驚いている...そんな状態だった。
初めて見るその「動き」。まさに
カルチャーショックだった。
それに普通の人だと思っていた人が、ダンサーとして踊っているというギャップにもショックを受けたんだと思う。
...何てったって、

こんな人が
こんな状態だったのだから....!踊りが終わっても、僕ら一同は驚きのあまり声を発することが出来ずにいた。
お礼もろくに言えず、
ただ寡黙にパイプ椅子を片づけ、
またゾロゾロと元のボックスに戻ってきた。
「....どうだった?」

ボー然とする僕らにミナさんが問いかけた。
今さっき目の前で行われた事を僕らは必死に整理していた。
そして、ようやく発することが出来た質問が
「竹歳さんって、いつからダンスを始めたんですか...?」
という問いだった。
「今のみんなと同じ、大学1年生からだよ。」
「じゃあ4年生になるころには、僕らもああなれるんですか?」
「なれるんじゃない?」
田舎から出来てきて、美術を志す人間の頭には絶対に出てこない「ダンス」の3文字。
心の中で「お前がダンス?あり得ねーよ!」という声に
「今から始めればあんな動きが出来て踊れるようになれるんだぜ!?スゲーよ!」
という声がかぶさってくる。
...そして、遂に前者の声をうち消してしまったのだ!
「オ・・・オレ、やりたいです、競技ダンス!!」
「オレも!」
「おれも!!」
「俺も!!!」一同は興奮気味に叫んだ。
この瞬間、僕の人生の中の「ダンス」という道への門が開け放たれたのである。
僕がアマチュアでダンスを続け、また同じくここに居たヒデキ、大五郎がのちにプロになること考えると、あの瞬間は大変な分岐点であったのだと思う。
(ちなみに、この段階ではまだ美久男は登場していない)
その後、諸さんもアーさんも想田さんもHtyさんも、みーんなダンサーだったんだ!と驚きつつ、さらにこのサークルにどっぷりハマっていったのである。
まさに楽しい楽しいダンス部生活の始まりだった。
...というわけで、分岐点というお話はここまで。
ところで先程途中に出てきた「僕に部屋に来てくれた人の一筆」。
この「一筆」は当時の僕の部屋の湿気を吸い、黄ばんではいるものの、
そのほとんどがまだ僕の手元に残っている。
皆20歳前後なのに実にいいことを書いてくれている。
お酒が入っているのでちょっぴり恥ずかしいものもあるが...。(^_^;;
次回はその中から、自分に響いたもの、イラストがとってもナイスなものなどを数点選んでお送りしようと思う。(プライバシーはなるべく守る方向で....)
#もし書いた記憶があり、「やめてくれ~~!」という人はコメント欄に書いておいてください....(^_^)
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