こんにちは、Izumixです。朝からおなかを壊しました。う〜ん。
なんか変なものを食べたかなぁ。。
昨日、新宿のジャズバーで大野雄二(ルパンの音楽をやっている
ジャズピアニスト)さんのトリオを聴いてきました。
最っ高でした!!ジャズはやはり生に限りますね。
さて今回も「ジャズ小説」で行きたいと思います。
前回の小説の、「男と女」の昔の(恋人になる前の?)話です。
前回はマイルス・デイヴィスの名曲でしたが、今回はその大野雄二の名曲です。
この曲、モダンのマッシモ組が01年頃のスローで使っていたことがあるんです。
だからきっと、聴いたことがある方も多いのでは??
ではどうぞー。
あっ!前回のコメントありがとうございました!レスこれから書きます!
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桜は散った。瑞々しい若葉が顔を出している。
男は地面に目を落とす。道は花びらで埋め尽くされていて、その上を自転車が通った跡が残っている。まるで雪がうっすらと積もっているようで、男が自分の吐く息が白く曇る気がした。
「こんな日だった気がするなぁ」男がつぶやく。
「何がです」女が顔も向けずに返事をする。
「あれだよ、僕たちが初めて・・・」
「それは冬です。この季節じゃないわ」
「雨が降っていたっけね?」
「雪よ」女はため息をつく。
「本当にロマンのかけらもない方ね、忘れてしまったの?」
ああ、だからこの雪のような道を見て思い出したのか、と男は思う。
冬の、誰もが長いコートとマフラーを着込むような寒さの頃、
男が、バーボンストリートという通りを歩いている。コートに手を突っ込み、雪がちらつく中を歩いている。
道の両側にあるバーの、オレンジの光が石畳を照らす。
男の吐く息は白く煙る。
煙草を煙らす女がいる。男を待っている。
気だるい音楽に、黒ビールをテーブルに載せて、くわえ煙草で座っている。煙草に口紅の跡がつく。
男と女はお互いを知っている。
男と女はいつも別の方向を見つめている。が、どこかでお互いはお互いと向き合っている。
ふたりは少し距離を開けて歩く。
会話は途切れ、また始まり、また少しの沈黙が流れる。
ふたりの間に暴れまわるのは冬の風と、目に見えない群青色の光である。
それぞれの家へ帰ったときはいつも、夜中を過ぎ、眠ろうとするときに、ふと思い浮かべる何かが、二人の間でまた群青色の光になる。
それに気付くのは、音もなく闇に降る雪。彼らは、それぞれの灯りを消して眠る。その一瞬の青い光が、何よりも美しいものだとは気付かない。
バーボンストリートの夜は過ぎ行く。
「だが俺は迷っている。この先の未来が、二人にとって良いものなのか否か」
「そんなことはあとから考えれば良いのよ」女はまた煙草を呑む。
「しかし−俺はもう30になる。余計なことはしていられないのだ」
「私が余計なものだというの?」
男は黙る。相変わらず雪が、音もなく散らついている。
女が沈黙を破る。
「そんな迷いは−これで解決するのではない?」
そう言った女は男の胸に手を当てる。雪と同じように音もなく、気配もなく顔を近づける。
男の目には、女の赤い唇だけが映る。
女の唇は男の唇を柔らかく包む。その2つは形を無くす。
影が重なっているその間、雪も、石畳に映るオレンジの光も、
ゆっくりと過ぎて行く。重なる影だけが、時を止めている。
—ふと、どこからかピアノのジャズが聴こえだす。
トリオであろうその音は、降る雪と同じ速さで流れ出している。
時を止めた影は、その音でまた動き出す。
女が唇を離したとき、男の唇には口紅の後が線を引いている。
影の中で、それだけが色を帯びていた。
ジャズは、群青色の光の間をふらりと抜ける。
光はそれきり消えてしまったが、男と女は、こうして始まったのである。
バーボンストリートの夜は過ぎ行く。
'Bourbon Street Lullaby' From [LUPIN THE THIRD JAZZ the 2nd ]By大野雄二PR