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□■ 『石膏屋のおやじと俺』
2007/02/05 13:30
「19のままさ〜」と浜省の曲にもあるように多感な歳である、
そんな時期のエピソードをひとつ紹介します。

そのころ僕は船橋にある某美術予備校に通っていた、
毎朝6時に起きて始発の快速に乗り1時間ほど電車に揺られる日々を送っていた。
そうまだ総武・横須賀線がボックスシートの頃だ
4人がけのシートには自分以外はスーツ姿のサラリーマン、
彼らは新聞を読んだり顔なじみと話したりしている

予備校の始業は9時であるが早起きしてデッサンのいい席を取るのが常だった、
目の前にはマシュマロのような石膏像…
講評では毎回講師の先生方に「がんばりましょう…」ばかり言われていた、
これはまずいと思った自分は主任の先生に相談してみた
彼曰く「俺が浪人中はマルス、パジャント、ゲタ、それからえーっとヘルメス…
四畳半の下宿に四体持っていたよ。それを毎晩布団の中に入れてとっかえひっかえ。」
後半は彼得意の洒落であるが、石膏の一体くらいは持ってないとまずいぞ君、
という彼のメッセージであったと思う。
自分はそんなものうちの木造住居じゃインテリアにもならないし迷いがあったのだが、
隣で聞いていた仲間の1人がその気になってしまい、週末に石膏像を買いに行くはめになった。

お茶の水に着くと何軒か画廊や画材屋をはしごした、
その中でおあつらえ向きの一軒があったのでそこで物色していると。
そこの店主が現れた
「君たち芸大でも目指してるのかい?」
「はっはい」
そっこらはおやじのスタンドプレイが始まった…

『だいたい芸大受かる奴は1年で5体は買って行くね、去年油科に受かった奴なんか
二ヶ月に1体のペースで完璧にマスターした像はアトリエでみんなの前でハンマーで叩き怖してさ!』

「ええっ!?もったいない。」

『あと先月大阪から来た女性は3体買ってさ、送料もったいないって言ってかついで新幹線で帰ったよ。』

(いくらなんでもそれは…)と思いつつも隣の友人を見ると、あっやばいこいつ信じ込んでる…

『俺が芸大生の時は砂糖、塩、小麦粉の山が3つあってそれをデッサンさせられたもんだよ。』

(えっおっさん芸大卒なの?)

『砂糖は甘く描け!塩はしょっぱく描け!小麦粉は…粉っぽく描け!』

(小麦粉だけなんか無理矢理だし)

そんなこんなで小1時間、説得されて…
僕はマルス像、友人はヘルメス像を購入した。

問題はそこから担いで君津の家まで持って帰ることだった、
例の大阪の女性の流れから持ち帰るのが暗黙の了解となっていた。
総武線各駅に揺られながら津田沼で友人と別れ…
そこから周囲の眼が急に気になりだしながらも千葉で乗り換え
やっと君津に到着、その頃にはもう吹っ切れて両手にマルスを抱え切符を口にはさみ
内心は俺ってちょっとワイルド?と勘違いしながら改札をパスすると
そこには高校時代の部活仲間が偶然たむろしてて、こっぴどく笑われた記憶が残っている。
片田舎の高校では浪人して美大を目指すなんて異端児扱いだった。
そんな苦労までして手に入れた石膏像は2、3回描こうとしたがメゲてしまった。

そして十数年経った今、実家の居間にはマルス像が所狭そうに置かれている。
そして自分は今も一応美術がらみの仕事に就いている。

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