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□■ 翼の栄光
2007/07/04 01:42
「尊敬する歴史上の人物は?」と面接などで尋ねられることがしばしばある。世間的には回答として織田信長や坂本竜馬あたりが無難で、印象もいいという話だ。
 ただ、それではありきたりで面白みがない。それに俺は歴史科目に微塵も興味がなく、ゲロ吐くくらい嫌いだったため、彼らが具体的に何をやった人物なのかよく知らない(さすがに信長がうぐいすにマジギレすることくらいは知っている)。
 そこでその昔、俺が選んだ対面接用歴史上尊敬人物はライト兄弟だった。
 言うまでもなく、1903年に人類初の有人動力飛行を成し遂げたあのライト兄弟である。
 横文字圏の人物のくせに名前に漢字が入っているし、二人組だからインパクトがある。空を飛ぶという目標もロマンティックでよろしい。
 かくして俺は図書館などで彼らの足跡を追う運びとなる。この時点では、半分冗談のようなウケ狙いのようなスタンスだ。
 これが悲劇の兄弟、ライト兄弟と俺との出会いだった。

 ライト兄弟は悲しい。
 まず兄弟の基礎諸元をおさえておきたい。
 そもそも Light でも Lite でも Right でも Write でもなく Wright Brothers である。LとRの区別が苦手な日本人は発音に注意が必要だ。
 いわゆるライト兄弟は、兄・ウィルバー・ライトと弟・オービル・ライトの兄弟デュオを指すが、彼らにはさらに二人の兄、そしてキャサリンという妹がいる。
 大筋として小生意気な妹に「飛べるもんなら飛んでみろ」と挑発されたお気楽な三男四男が、「おお、やったらあ!」と啖呵をきり、引くに引けなくなったものとたやすく予想できる。

 悲劇の始まりは1896年、二人が大ファンだったドイツの飛行家・リリエンタールの墜落死だ。
 以前から大空に憧れを抱いていた兄弟は、リリエンタールの遺志を継ぎ、翼に魂を売ることを決意。
 彼らはアメリカの片田舎で自転車屋を営んでいた。しかも既製品だけでなく、オリジナルの自転車も製作販売していた。基本的な機械いじりの知識と技術は持っていたということだ。
 その自転車屋をたたんで飛行機製造にとりかかる。数機のグライダーを製作、飛行実験に成功し、わずか数年でリリエンタールに追いついてしまった。恐るべき情熱だ。
 そしていよいよエンジンを載せようかという段階まで順調にやってきた。
 彼らにはプロペラや軽いエンジンを作る知識がないため、各分野の専門家にお伺いをたてる。ところが反応は芳しくない。
「エンジンを載せた機体は重すぎる。飛ぶわけがない。協力者は皆無だった……」
 モノクロ写真の乾いた画面にトモロヲのナレーションが聞こえてきそうな状況だ。
 やむなくすべての自作を決意する兄弟だった。

 嫌なライバルが出現する。グレン・カーチスという男だ。
 助力を装って彼らに近付き、そのノウハウを自身の飛行機開発に還元するという絵に描いたような悪役だ。
 また彼は、エピローグにおいて「公式に飛んだのは俺の方が早かった」といちゃもんをつけたり、特許関係で嫌がらせをしたりと、ほどよく後味の悪いアクセントと不快な彩りを添えてくれる。ハリウッド映画にありがちな、徹底的に同情の余地がないキャラクターである。
 航空関係の話(例・紅の豚)において「カーチス」という名のライバルが登場したら、100%彼がモデルと考えて差し支えない。

 なんだかんだで数回の失敗を経て、1903年、とうとうあのライトフライヤー号が完成する。
「12月17日に飛行機を飛ばすよ。みんな見にきてね!」と宣伝したにもかかわらず、集まったのは地元の暇人が5人。マスコミの人間ゼロ。これが後ほどカーチスに公式に飛んだのはどうのこうのと突っ込まれる要因となる。
「そんなもん関係あるかい! 飛んだらあ! 見てろキャサリン!」
 操縦桿を握るオービルがそう叫んだかどうかは不明だが、歴史的瞬間に立ち会ったのは当事者を含めわずか7名だ。悲しい。

 ライト兄弟が本格的に飛行機を作り出してから飛行に成功するまで約5年。そしてそのわずか十年後の第一次世界大戦に入れば戦闘機が飛びまくり、続くようにして旅客機も登場した。「飛ぶわけがない」と冷ややかだった人々が手のひらを返しまくった結果だ。その後の航空業界の隆盛は語るまでもない。
 だが、そんなことは小さな問題だ。
 カーチスや航空工学・流体力学の偉い人たちの手回しにより、ライト兄弟にはこれといった地位も名誉も与えられていないのだ。
 形だけの航空機会社を興してみるものの、元来職人である彼らにとって経営は未知の領域であり、カーチスの会社に吸収合併されるという末路を辿る。
 世の天才たちの多くがそうであるように、兄弟に対する評価が確立したのは彼らの死後である。悲しすぎる。

 しかし、しかし最も悲しいのは「ライト兄弟」という名前ではないだろうか。何よりその名前自体が、夢を共有できる仲間が身内にしかいなかったことを如実に物語っているのだから……。

 面接などで「尊敬する歴史上の人物は?」と尋ねられたら、以上の話(かなり俺の脚色含む)を延々と発表して印象づける腹づもりだったのですが、結局その機会がおとずれなかったため、この場を借りて出すこととなりました。披露することができて個人的に満足です。
 というわけで次回は人類初の放射線被曝者、悲劇の夫人、キュリー夫人のお話をお送りします(うそ)。
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コメント
あぁ…
ライト兄弟がしんけいさんによって美味しく料理されてしまいましたね。
しんけいさんが歴史の教科書を書いてくれたら、アタシも歴史の授業好きになったのに。

後半は「へぇ~」の連続でした。もの悲しさがたまらんです。
【2007/07/04 15:22
WEBLINK [ ] NAME [ みのり #92ca4cbd28 ] EDIT
今回は「へぇ~!」って感じでした。
ライト兄弟の話は、よくあるマンガの偉人伝で軽く読んだ記憶がありますが、
カーチスという悪役の存在や、地位や名誉を与えられていない等の話は知らなかったので...
ホント悲劇の夫人もやってほしいです。(笑)
【2007/07/04 19:16
WEBLINK [ ] NAME [ じめ #2abe8dfde7 ] EDIT
読めば読むほど悲しいっす。
死んだあとの栄光なんていらないっす!
【2007/07/05 01:29
WEBLINK [ ] NAME [ jun #8de8c696a0 ] EDIT
>>みのり
改めて読み返してみると、信長がマジギレしたのはウグイスじゃなくてホトトギスでした。平安京とごっちゃになってるんだね。しんけいくんはよっぽど歴史が苦手なことが見て取れます。俺が教科書を書いたら史学者たちがマジギレするよ。

>>じめ
今回のものに限らず、ニュートンvsフック、フロイトvsユングなど悲劇の偉人対決シリーズのネタはいくらでもあるのだが、俺が書くまでもなくネットで調べればザクザク出てくるからなあ。便利な時代になったもんだ。悲しいよ。

>>じゅん
悲しいだろ。ただ重ねて言っておくけど、上の文章はかなり俺のアレンジが入ってるからね。ライト兄弟マニアの前で得意げに語ると恥をかくよ。注意してね。
【2007/07/11 00:40
WEBLINK [ ] NAME [ しんけい #92d8c7e537 ] EDIT
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